AI外観検査ガイド

目視検査のコツと限界 条件を整えた実験でも見逃しは15%

公開文責 合同会社frogiraffe

目視検査は、人が製品を目で見て傷や欠け、異物を見分ける検査で、現場では「目検」とも呼ばれます。見逃しを減らすには、手元を1,000ルクス以上に明るくし、続けて見るのは30分までにして、判定は見本と見比べて行います。ただ、休憩や訓練、見本をそろえた米国の研究所の実験でも、検査員82人が不合格にできた不良品は平均85%で、残りの15%は見逃されました。

見逃しは「探す」と「決める」の二段階で起きる

目視検査の研究では、検査を二つの段階に分けて考えます。表面を目でなぞって気になる箇所を探す段階と、それが不良かどうかを決める段階です1。誤りは、良品を不良とする誤検出より、不良品を通してしまう見逃しの側に出やすいと報告されています1。照明や視線の動かし方は探す段階を、見本や判定基準は決める段階を助けます。

照明は1,000ルクス以上、続けて見るのは30分まで

探す段階で効く条件を、研究と規格の数字で並べると次のようになります。

条件 目安
手元の明るさ 検査の工程はおおむね1,000ルクス以上2。法令の最低基準(精密な作業で300ルクス以上)はその3割にとどまる3
照り返し 光の向きや治具の角度を変え、照り返しが目に入らないようにする4
視線の動かし方 左上から行ごとに、文章を読む順で全面をなぞる5
1個にかける時間 2倍の速さで見たら、見逃しが23%から30%に増えた例がある。時間を延ばしても検出の伸びは次第に小さくなり、誤検出は増える6
続けて見る時間 30分を上限に、5分休むか別の作業に切り替える7

訓練を受けていない人は、品物の中央を端より念入りに見がちです。決まった順でなぞる方法を教えたところ、鋳物の検査で誤検出が減り、端まで目が届くようになりました5。

判定は見本と見比べ、探す不良の種類を絞る

良品と不良品の境目を示す見本(限度見本)を手元に置き、記憶に頼らず見比べて判定します。基準は単純なほうがよいとされます8。機械加工部品の熟練検査員27人に、寸法と公差を書いた簡単な図を渡しただけで、穴位置のずれや寸法外れの検出が42%増えた例もあります8。

1回に探す不良の種類も絞ります。樹脂ブロックを使った模擬検査では、探す不良を1種類から5種類に増やすと、見分ける力の指標(d′)が2.8から1.6へ4割ほど下がりました9。同時に探せるのは6種類程度までとする研究もあります9。

判定の結果は、すぐ検査員に返します。ガラス工場で、抜き取り検査の結果を全数検査の担当者へすぐ伝えるようにしたところ、見逃しが半分に減りました10。

条件を整えた実験でも、見逃しは15%残った

米国のサンディア国立研究所は、核兵器の部品を日ごろ検査している検査員82人に、溶接した小さな金属の精密部品100個(うち不良品30個)を検査してもらいました。照明は平均750ルクスで、30分ごとに休憩を挟み、事前に約2時間の訓練を受け、時間制限はなく、良品の見本も手元にありました。それでも不良品を不合格にできたのは平均85%で、15%は見逃されています11。良品の35%も不合格にしました。著者は、疑わしければ捨てる職場の方針が影響したとみています11。

不良の種類による差はさらに大きく、溶接位置のずれは93%見つかった一方、溶接まわりの膨らみは1%しか見つかりませんでした(図1)。

不良の種類ごとの検出率の横棒グラフ。溶接位置のずれ93%、縁のぎざぎざ82%、薄板のしわや折れ81%、薄板の取付けずれ31%、指紋28%、薄板の切れ25%、余分な溶接7%、溶接まわりの膨らみ1%
図1 不良の種類ごとの検出率(検査員82人の平均)。See(2015)の表4をもとに作成。

集中も長くは続きません。自動車用のゴム製シールを30分検査した熟練検査員10人は、後半の15分の成績が前半より27%落ちました7。

判定は人によっても、同じ人の中でもぶれます。はんだ付け不良の検出率は検査員によって43%から100%まで開き、同じピストンリングを2回検査させると判定の23%が入れ替わりました12。サンディアの実験では、経験年数の長さと成績に関係は見られませんでした11。

少量多品種の現場には、もう一つ不利な点があります。ある検査でうまく探せる人が、種類の違う検査でもうまく探せるとは限りません1。品種が頻繁に変わる現場では、目が慣れる前に次の品種が来ます。サンディアの検査員も、この部品をもっと見慣れていれば自信を持って判定できたと話し、68%は、複数の品種や8種類を超える不良を扱う普段の仕事のほうが負荷が高いと答えました11。

見逃しが減らないなら、AI外観検査を検討する

照明、休憩、見本、結果の返し方を整えても見逃しや流出が減らないなら、AI外観検査を検討する時期です。経済産業省の中小企業向けガイドブックは、不良品の画像で学習させる方式を自社で導入する場合の目安として、次の条件を挙げています13。

  • 1つの製品の検査に、検査員1人が月3日以上かけている
  • 月5千個以上つくっているか、不良率が1%以上ある
  • 学習用の不良品を、種類ごとに2〜5個以上、合わせて20個以上集められる

同じガイドブックは、作業者ごとに判断が異なることを、導入でつまずきやすい点に挙げています13。不良品が集まらない場合は良品の画像だけで学習させる方式もありますが、同省の別冊は、機械学習のプログラムを書ける人材(一部外注も可)がいることを前提にしています14。どちらの方式でも、何を不良とするかが人の間で揃っていなければ、AIに教える正解が決まりません。検討を始める前に、限度見本と不良の呼び名を検査員の間で揃えておくと、事業者との最初の打ち合わせが早く進みます。

出典

  1. Judi E. See「Visual Inspection: A Review of the Literature」(SAND2012-8590)、Sandia National Laboratories、2012年。誤りが見逃しの側に出やすいこと(Wiener 1984)は2.3節(p.15〜16)、検査を「探す」と「決める」の2段階で捉えるモデルと、探すうまさが別の種類の検査には持ち越されないという研究(Drury & Wang 1986)は2.4節(p.17〜18)による。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩ ↩2 ↩3

  2. パナソニック「特殊環境用照明設備:検査照明」照明設計サポート P.L.A.M.。JIS Z 9125:2023(屋内照明基準)が各業種の最終検査や品質管理の工程に示す推奨照度の解説。https://www2.panasonic.biz/jp/lighting/plam/manual/facilities/special/inspection-lighting/ ↩

  3. 労働安全衛生規則 第604条(照度)、e-Gov 法令検索。https://laws.e-gov.go.jp/law/347M50002000032 ↩

  4. 前掲 See(2012)3.2.1節(p.36)と3.2.6節(p.41)。プリント基板の検査で、反射の少ない型板に替えて角度を付けたところ照り返しが35%以上減った事例(Yeow & Sen 2004)を含む。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩

  5. 前掲 See(2012)2.4.1節(p.18)と3.3.9節(p.47)。鋳物5種類90個を24人が検査した研究は Watts(2011)。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩ ↩2

  6. 前掲 See(2012)3.1.7節(p.32〜33)。2倍速の例は集積回路チップの検査(Schoonard, Gould & Miller 1973)。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩

  7. 前掲 See(2012)3.2.5節(p.39〜40)。30分の上限と5分休憩は Purswell & Hoag(1974)ほか複数の研究の推奨、ゴム製シールの例は Fox(1977)。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩ ↩2

  8. 前掲 See(2012)3.1.6節(p.31〜32)と3.1.9節(p.33〜34)。単純な基準のほうがよいことは Rao ほか(2006)、図の例は Chaney & Teel(1967)。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩ ↩2

  9. 前掲 See(2012)3.1.2節(p.28〜29)。樹脂ブロックの模擬検査は Ainsworth(1982)で、指標は信号検出理論の d′。6種類の限度は Rao ほか(2006)。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩ ↩2

  10. 前掲 See(2012)3.4.4節(p.54)。ガラス工場の例は Drury & Addison(1973)。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩

  11. Judi E. See「Visual Inspection Reliability for Precision Manufactured Parts」、Human Factors 57巻8号、p.1427〜1442、2015年。条件は Method(著者原稿 p.8〜13)、不良品を不合格にした割合85%と良品を不合格にした割合35%は Results(同 p.15〜16)、種類別の検出率は表4(同 p.17)、見慣れていればという発言は同 p.15、疑わしければ捨てる方針は同 p.24、68%の回答は同 p.20、経験年数と成績の関係は同 p.22。https://doi.org/10.1177/0018720815602389 (著者原稿 https://www.osti.gov/pages/biblio/1236203 ) ↩ ↩2 ↩3 ↩4

  12. 前掲 See(2012)3.3節(p.41)。いずれも McCornack(1961)の報告。https://www.osti.gov/biblio/1055636 ↩

  13. 経済産業省「AI導入ガイドブック 外観検査(部品、不良品あり)」2021年3月。対象者チェックリスト(p.3)、つまずきやすいポイント(p.21)、対象製品選定の軸(p.25)。経済産業省サイトの掲載先は2026年10月時点で開けないため、Internet Archive の保存版を参照した。https://web.archive.org/web/20220409001153/https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/AIguidebook_gaikan_furyo_FIX.pdf ↩ ↩2

  14. 経済産業省「AI導入ガイドブック 外観検査(部品、良品のみ)」2021年3月。対象者(p.2)と、良品のみで学習させる方法の説明(p.7)。Internet Archive の保存版。https://web.archive.org/web/20241001195807/https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/AIguidebook_gaikan_ryohin_FIX.pdf ↩

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送っていただくもの

  • 部品の名前と材質(例 アルミダイカストのハウジング)
  • 見つけたい欠陥の種類(傷、打痕、欠け、バリなど)
  • 良品と不良品の写真(任意、3枚まで)